最初の商業工場は、予定より遅れ、費用が膨らんでいた——UPMとAvantiumの2つの記録から読む
木から化学品を作るUPMのドイツの工場は、総投資が当初発表の約2.5倍になり、最初の商業製品の販売開始は、当初の開始予定から約3年後でした。植物由来プラスチックの原料を作るAvantiumの工場も、2024年8月の計画から約2年遅れて初回の製品ができました。2社の公表資料から、遅れの中身と、「稼働した」という発表の読み分け方を整理します。
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「世界初の商業規模の工場が稼働」。バイオ由来の素材や化学品のニュースで、よく見かける見出しです。では、その発表から、実際に製品が売られ続けるまでに、何が起きるのか。2026年の秋に、2つの工場が、そこまでの記録を公表しました。ドイツでUPMが開所した木質の化学品工場と、オランダでAvantiumが最初の製品を作った工場です。どちらも、計画から大きく遅れ、費用も増えています。何が、どれだけ遅れ、その間に何が起きたのかを、会社自身の資料から見ます。原因を一般化するのではなく、2つの記録が示す範囲を確かめます。
2つの工場の、計画と実際
先に、数字を並べます。
| UPM(ドイツ・ロイナ) | Avantium(オランダ・デルフザイル) | |
|---|---|---|
| 作るもの | 木から、工業用の糖、リグニン由来の特殊化学品など(年産22万トンの規模) | FDCA(植物由来のプラスチックPEFの原料) |
| 比べる基準の計画 | 2020年の最初の発表。5.5億ユーロの投資と、2022年末までの開始 | 2024年8月時点の計画(最初の計画ではない)。2024年第4四半期に開始、総投資の見込みは1.75億ユーロで、前回の見込みより2,600万ユーロ増えた後の数字 |
| 実際 | 総投資は13.7億ユーロ。2025年12月に、最初の商業製品(工業用の糖)の生産・販売を開始。開所式は2026年10月15日 | 2026年1月に溶接の問題で、開始を2026年半ばに延期(追加投資700万ユーロ)。さらに遅れ、最初のFDCAができたのは2026年9月28日 |
| 差 | 投資は約2.5倍。2022年末としていた開始から、最初の商業製品まで約3年 | 2024年8月時点の計画から、初回の製品まで約2年 |
UPMの数字は、UPMの2026年10月と2025年12月の発表(転載記事で確認)と、2020年の計画の報道を比べたものです。13.7億ユーロに、計画の範囲の変更が含まれているかどうかは、確認できていません。また、2022年末としていた「開始」と、2025年12月の「最初の商業製品」は、同じものを指しているとは限りません。2025年2月の発表が約束していたのは、工場全体の統合された商業生産の開始(2025年後半)でした。Avantiumは、基準にした計画の時点がUPMと異なります。UPMは、2025年2月に、費用の超過と建設の遅れを理由に、3.73億ユーロの減損(資産の価値を帳簿上で切り下げること)を計上しています。
Avantiumの数字は、同社自身の発表と決算説明の記録からです。
遅れの中身は何だったのか
遅れの原因は、2社とも、会社が説明しています。
UPMは、2025年2月に、糖から化学品を作る工程の品質確認で、是正作業が必要だと分かった、と説明しました。この作業には数か月かかり、商業生産の開始を2025年後半に延ばしました。このほか、新型コロナウイルスやウクライナ侵攻による影響も、挙げています。是正が必要になった中身(機械的な問題だったのか、工程の設計だったのか)は、確認できた資料からは分かりません。
Avantiumは、2026年1月に、配管のチタンの溶接に、施工上の品質の問題が見つかったと発表しました。安全上のリスクがあり、直す必要がありました。2026年8月の説明会では、さらに、装置の問題、冷却能力の不足、計器の調整と校正に、予想より時間がかかっている、と述べています。経営陣は、これらは「化学や技術の基盤そのものに関わるものではない」「初号機の、複雑な商業規模の工場で、よくある試運転の項目だ」と説明しています。
これは、会社自身の説明です。技術そのものに問題がなかったのかは、第三者が検証したものではありません。Avantiumの説明では、遅れの原因は、反応や原理の部分ではなく、配管、溶接、冷却、計器といった、工場として動かすための細部にあります。すべての装置が一緒に動く必要があり、どこか1つが適切に動かなければ、工場は安全に始動できない、とも説明しています。なお、Avantiumの2024年第4四半期から2026年半ばへの遅れの多くは2025年中に起きましたが、その間の原因は、2025年の決算で「施工に関する問題」と述べられているだけで、確認できていません。UPMの原因は工程の品質で、Avantiumのように機械的な細部だったとは、確認できていません。
「できた」には段階がある
ニュースの「稼働した」は、いくつもの段階を含んでいます。2社の記録から、段階を分けて並べます。
| 段階 | UPM | Avantium |
|---|---|---|
| 設備が完成し、試運転に入った | 2024年後半に試運転を開始(2025年2月の発表) | 2024年8月の時点で、建設は完了に近づき、試運転が進んでいた |
| 開所した | 2026年10月15日 | 開所式は2024年10月に予定されていた(実施は確認していない) |
| 初めての製品ができた | 一部の製品は安定運転。バイオMEGの現状は、確認できた発表に言及がない | 2026年9月28日に、最初のFDCAができた |
| 製品が顧客に認められ、販売が始まる | 2025年12月に、最初の商業製品(工業用の糖)の販売を開始。2026年10月の発表では、リグニン由来の特殊化学品の販売を拡大中 | 2026年末に、最初の出荷を見込む |
| 設計の生産能力に達する | 時期は示されていない | 開始から12〜24か月で達する見込み(会社の説明) |
同じ「稼働」でも、ある段階で止まっているのか、次の段階に進んだのかで、意味が大きく変わります。たとえばAvantiumは、最初の製品ができたあとの課題として、顧客の仕様に合うかを確認する品質の認定と、連続運転への移行を挙げています。
「実証」と「商業」の区別は、「実証事業」を「商用実績」のように読んでしまう典型パターンでも整理しています。
遅れは、資金の問題になる
遅れは、時間だけの問題ではありません。工場が動いていない間も、費用は出ていきます。
Avantiumは、2025年に8,500万ユーロの増資を行い、債務の条件を見直しました。2026年6月末の現金は2,390万ユーロです。同社は、少なくとも5,500万ユーロの増資を、2026年第4四半期に始めたいと説明しています。また、2,000万ユーロの転換社債(株式に換えられる借入)の条件書を受け取っていますが、これは増資の成立などが条件です。
2026年9月30日の半期の財務諸表には、「継続企業の前提に関する重要な不確実性」(事業を続けられるかどうかに、重要な不確実性があること)が記載されました。会社の判断は、工場の始動と商業運転の開始、資金の確保、債務の条件の充足、元請け業者との契約上の決着(2026年9月29日に合意)などの前提に左右される、とされています。
引取契約については、Avantiumは、この工場の製品について、23件の引取契約を結んだと説明しています(2026年9月30日時点。8月の説明会では22件)。別に、将来のライセンス先の工場向けに、17件の生産能力の予約があります。ただし、契約の数量や価格は、ここでは確認していません。「契約を結んだ」は、なぜ融資の根拠にならないことがあるのかで整理したように、契約があることと、資金が調達できることは、別の問題です。
UPMについては、遅れと費用の超過が、減損という形で、すでに決算に表れています。工場を建てる資金が集まりにくい構造は、なぜ実証に成功しても、工場を建てるお金が集まらないのかで扱っています。
発表を読むときに確認すること
2社の記録から、「稼働した」という発表を見たときの確認点を整理します。本稿の整理です。
- どの段階の話か。 設備の完成、開所、初めての製品、顧客の認定、販売の開始、設計能力のどれなのか。
- 最初の計画から、日付と費用がどう動いたか。 過去の発表と並べると、遅れと増額の履歴が分かります。
- 遅れの原因は、何と説明されているか。 反応や原理の問題なのか、施工や装置の問題なのか。その説明に、独立した確認はあるか。
- 顧客と契約の中身が示されているか。 名前、数量、価格、契約の性質が書かれているか。
- 資金の見通しはあるか。 次の増資や借入の予定が、発表に含まれているか。
まとめ
- UPMの木質化学品の工場は、総投資が当初発表の約2.5倍になり、最初の商業製品の販売開始は、当初の開始予定から約3年後でした(「開始」の定義は同じとは限りません)。
- Avantiumの工場は、2024年8月時点の計画から約2年遅れ、2026年9月に最初のFDCAができました。商業出荷は2026年末の見込みで、設計の能力に達するのは、さらに12〜24か月後の見込みです。
- Avantiumが説明する遅れの原因は、配管、溶接、冷却、計器など、工場を動かす細部です。UPMの原因は工程の品質で、中身は確認できていません。どちらも会社自身の説明で、第三者の検証は確認できていません。
- 「稼働した」には、設備の完成から設計能力まで、いくつもの段階があります。どの段階かを分けて読む必要があります。
この記事が示せるのは、2つの工場の記録までです。ほかの最初の商業工場が同じ経過をたどるとは、言えません。次に見たいのは、UPMの主要製品の出荷と顧客、Avantiumの2026年末の出荷と、第4四半期に予定される増資の成否です。
参照資料
- UPM「From wood to chemicals: UPM inaugurates pioneering biorefinery in Germany」(2026年10月15日、同社サイト。内容は転載記事でも確認。総投資、生産能力、稼働状況). upm.com
- Pulp & Paper News「UPM postpones commercial start-up of biorefinery in Germany」(2025年2月。UPMの発表の転載。延期、是正作業、減損). pulpapernews.com
- Bioenergy International「UPM to invest EUR 550 million in industrial-scale biorefinery in Germany」(2020年。当初の投資額と開始予定). bioenergyinternational.com
- Avantium「Avantium continues to progress towards the start-up of its FDCA Flagship Plant in 2024」(2024年8月21日。当初の開始計画と総投資の見込み). newsroom.avantium.com
- Avantium「Avantium Provides an Update on the Start-Up of its FDCA Flagship Plant」(2026年1月23日。溶接の問題、追加投資、延期). newsroom.avantium.com
- Avantium「1st Half 2026 Analyst Call」(2026年8月19日、説明会の記録。遅れの原因、現金、増資計画、引取契約、ランプアップ). avantium.com
- Avantium「Avantium announces the start-up of its Flagship Plant, with the first batch of FDCA produced」(2026年9月28日。初回の製品、商業販売の見込み、ランプアップ). newsroom.avantium.com
- Avantium「Avantium Publishes Half-Year 2026 Financial Statements and Completes Worley Contractual Close-out for FDCA Flagship Plant」(2026年9月30日。継続企業の前提に関する重要な不確実性、引取契約の件数、増資の時期). newsroom.avantium.com
- UPM「UPM unlocks new bio-based markets as Leuna biorefinery produces its first commercial product」(2025年12月19日。最初の商業製品は工業用の糖。転載記事で確認). upm.com
- Avantium「Avantium announces its full year 2025 results」(2026年3月18日。2025年の増資、債務の条件). newsroom.avantium.com