bioeconomy.jp
考察

バイオ炭のJ-クレジットは、何を証明し、何を証明しないのか——AG-004の読み方

バイオ炭の農地施用のJ-クレジット(方法論AG-004、最新版ver.2.6)は、定められた条件の施用と、既定値による炭素貯留量の計算を認証の対象にしています。方法論が要求していること、置いている仮定、AG-004だけでは評価できない論点を、原文に即して分けて整理します。

バイオエコノミーの最新の動きは Xでも追っています →

農地にバイオ炭をすき込む作業のイメージ

「バイオ炭を畑にまけば、J-クレジットが取れる」。この言い方は、半分は正しく、半分は注意が必要です。J-クレジットの方法論AG-004は、バイオ炭の農地施用について、どういう条件の施用を対象とし、炭素貯留量をどう計算するかを決めています。ただし、そこに書かれていることと、書かれていないことを区別しないと、「クレジットがある=炭素が100年閉じ込められたと実測で確認された」と受け取られることがあります。この記事では、2026年10月時点の最新版であるver.2.6の原文をもとに、要求されていること、置かれている仮定、AG-004だけでは評価できない論点を分けて整理します。クレジットの取得手順を説明する記事ではありません。

AG-004が対象にしているもの

J-クレジット制度は、温室効果ガスの排出削減量や吸収量を、クレジットとして国が認証する制度です。方法論は、技術ごとに、適用範囲、算定方法、モニタリング方法を定めたものです。

AG-004「バイオ炭の農地施用」は、2020年9月23日にver.1.0が制定されました。その後、改定を重ね、2026年8月14日にver.2.6が改定されています(制度の方法論一覧、2026年10月6日更新時点で最新)。方法論の冒頭は、対象を「バイオ炭を農地土壌へ施用し、難分解性の炭素を土壌に貯留する活動」としています。バイオ炭とは、燃焼しない水準に管理された酸素濃度のもとで、350℃超の温度でバイオマスを加熱して作られる固形物と定義されています。

対象は、炭素を土壌に貯留することで、本来なら排出されるはずだったCO2の排出量を削減する、という活動です。収量の向上や土壌の改良といった、農業上の効果は、方法論の対象に書かれていません。

方法論が要求していること

ver.2.6の適用条件は、6つです。すべてを満たす場合に適用できます。

  • 施用先。 農地法の「農地」または「採草放牧地」の、鉱質の土壌であること。農地台帳や農林水産省の農地ナビなどで確認し、鉱質土壌かどうかは、日本土壌インベントリーの分類か、土壌調査で確認します。根域制御栽培や高設栽培のように、施用先の土壌が農地から物理的に隔離されている場合は、条件を満たしません。
  • バイオ炭の種類。 炭素含有率と100年後の炭素残存率の既定値が適用できる種類であること(または、そうした既定値が適用できる原料と製炭温度で作られたこと)が、客観的に確認できること。製炭温度が350℃超であることは、固定炭素の測定や、精煉計による測定などで、実測して示す必要があります。
  • 原料の産地。 木材(竹を含む)を使う場合は、国内産であること。
  • 原料の位置づけ。 原料は、未利用の生物資源であること。農地施用のバイオ炭を作るために主伐された木材ではないこと。
  • 原料の中身。 異物、塗料、接着剤、防腐剤、薬剤、有害物が含まれていないこと。入手や使用に、法令違反や不適切な手続きがないこと。
  • 環境社会配慮。 プロジェクトの実施にあたり、環境社会配慮を行い、持続可能性を確保すること。

付記には、次の要求もあります。

  • バイオ炭を施用した日から10年を経過する日までの間に、その農地を農地以外に転用した場合は、制度管理者に報告し、発行されたJ-クレジットと同量を補填しなければなりません。
  • 方法論への適合は、施用の一度ごとに確認されます。

原料が「未利用」であることの確認方法として、原文は、供給元などが作成する文書の提出を求めています。原文には、製材所長などが署名する「未利用証明書」の例文が載っています。

方法論が置いている仮定

次に、計算の仕組みと、その前提を見ます。式とモニタリングの表は、ver.2.1の原文で確認し、ver.2.6では、適用条件、係数の表、付記、改定履歴を確認しました。ver.2.2以降の改定履歴には、式や係数の変更は書かれていません(ver.2.3は「モニタリング方法」の注記の加筆修正、ver.2.4は参照する制度文書名の修正と認証の申請期限の追加、ver.2.5と2.6は施用先の確認方法の追記です)。

貯留量は、次の式で計算されます。

貯留量 = プロジェクト実施後の貯留量 − ベースライン貯留量 − プロジェクト実施後の排出量

このうち、プロジェクト実施後の貯留量は、施用したバイオ炭の炭素の量(tC)に、炭素含有率と、100年後の炭素残存率をかけ、44/12をかけてCO2の量にしたものです。

この計算の前提は、次のとおりです。

  • 炭素含有率と100年後の炭素残存率は、既定値を使う。 原文の表では、2023年版の日本国温室効果ガスインベントリ報告書の値と、2019年改良IPCCガイドラインの附属書4にもとづく値が示されています。たとえば、白炭・黒炭・オガ炭は、炭素含有率が0.77、100年後の炭素残存率が0.89です。竹炭は、含有率0.778、残存率0.65です。家畜ふん由来や木材由来の自家製造品などは、残存率が0.65で、含有率は原料と製造方法(熱分解かガス化か)で異なります。製造ロットごとの証跡を出す場合は、一定の条件のもとで、残存率に0.80または0.89を使えます。
  • モニタリングでも、これらの係数は既定値を使う。 原文のモニタリングの表では、炭素含有率と炭素残存率の方法例は、どちらも「インベントリ報告書等記載のデフォルト値を利用」とされ、頻度は「検証申請時に最新のものを使用」と書かれています。実際に土壌中の炭素を測って確かめる項目は、ver.2.1の計算式の中には見当たりません(ver.2.2以降の改定履歴にも、この点の変更は書かれていません)。
  • ベースライン貯留量はゼロ。 農地にバイオ炭が施用されなかった場合の貯留量を、ゼロと置いています。
  • 追加性の評価は不要。 付記は、一般慣行障壁を有するプロジェクトのため、追加性の評価は不要と書いています。追加性とは、クレジットがなくても行われたかどうか、を問う考え方です。ここでは、追加性が個別のプロジェクトごとに審査されるのではなく、方法論の適用対象であること自体で足りる形になっています。この前提が成り立つかどうかは、AG-004の本文からは判断できません。
  • 排出量は、一部を省略できる。 原料の運搬、製造設備の使用、バイオ炭の運搬、施用機械の使用という4つの付随的な排出について、排出削減量に対する影響度が5%以上ならモニタリングする、1%以上5%未満ならモニタリングを省略できる、1%未満なら算定を省略できる、と決められています。省略する活動の影響度の合計は、5%未満にしなければなりません。ver.2.1の原文の排出の表では、算定の対象となる温室効果ガスは、燃料や電力の使用によるCO2とされています(ver.2.6での変更は、改定履歴には書かれていません)。

方法論の目的は、「どの前提で、どの計算をするか」を決めることです。これらの前提が妥当かどうかは、この記事では評価しません。読む側は、どこまでが前提なのかを区別する必要があります。

AG-004だけでは評価できない論点

AG-004の原文から、次の論点は読み取れません。「考慮していない」と断定できるものではなく、「方法論の本文からは判断できない」というものです。

実際に、どれだけの炭素が、どのくらいの期間残るのか。 計算には既定値が使われ、施用後の実測は式に入っていません。長期の残存について、独立した研究者の議論があります。2025年に学術誌GCB Bioenergyに載った政策コメンタリー(Hans-Peter Schmidtらによる論文)を紹介したBiochar Todayの記事によると、著者らは、バイオ炭の炭素除去の政策上の定義は、千年ではなく、数百年という時間軸を反映すべきだと勧めています。また、完全に不活性な炭素質の材料はないと述べ、同位体で標識したバイオ炭を使った圃場試験で、年0.8%から7.0%の分解が測られた例があると紹介されています。分解は生物活性の高い土壌で速く、残存性は絶対ではなく相対的だ、という整理です。これは記事を通じて確認した内容で、論文の本文は確認していません。これらの数字は、試験の条件が異なり、AG-004の100年後残存率とは直接比べられません。この議論から、AG-004の100年後残存率の数字そのものが誤りだとは言えません。分かるのは、「長期の残存性を、どの水準の確からしさで示すか」には、研究者の間でも議論がある、ということです。

クレジット以外の効果。 方法論が証明するのは、CO2の貯留量の計算です。収量、土壌の保水性、肥料の節減といった効果は、AG-004の対象ではありません。バイオ炭の販売や、農産物の付加価値として、こうした効果を語る場合は、別の根拠が必要です。

原料が、本当に追加的に未利用だったか。 方法論は、「プロジェクトが実施されない場合にマテリアル利用やエネルギー利用をされていた生物資源を原料としても、追加的なCO2削減にならないため、未利用の資源に限定する」と、理由を原文に書いています。つまり、制度は、この点を条件によって扱っています。ただし、その確認は、原料の供給元が出す文書に依っています。文書の中身が、他の用途の機会をどこまで検討した結果なのかは、AG-004からは分かりません。

排出の全体像。 付随的な排出は、影響度が小さいものを省略できます。また、炭化の工程などでの、CO2以外のガスの扱いは、ver.2.1の排出の表では算定の対象に挙がっていません。それが、実際にどのくらいの大きさなのかは、AG-004からは判断できません。これはLCA(製品や活動の環境負荷を、全体で見積もる方法)で別に確かめる論点です。

転用の義務と、100年という基準の差。 付記が求める補填の義務は、施用から10年を経過する日までの農地転用についてのものです。一方、貯留量の計算は、100年後の残存率を使っています。10年を過ぎた後の扱いが、100年という基準とどう整合するのかは、AG-004の本文からは判断できません。

原料の転換(リーケージ)。 原料を「未利用」に限ることは、他の用途から資源を奪わないための条件と読めます。ただし、炭化のために原料が移動したり、他の用途の需要が別の資源に移ったりする影響を、どこまで見ているかは、本文からは分かりません。

土壌の中のそのほかの変化。 バイオ炭が土壌のほかの炭素やガスの放出に与える影響は、AG-004の計算には出てきません。影響の有無や大きさは、AG-004からは判断できません。

価格や収益性。 クレジットの価格、買い手、取引の仕組みは、方法論の範囲外です。

bioeconomy.jpの読み方

ここまでの整理から、AG-004のJ-クレジットが証明しているものを、次のようにまとめます。これは、bioeconomy.jpの分析です。

示しているのは、「定められた条件の施用が行われ、既定値を使った計算で、この量のCO2貯留が見込まれる」ということです。 AG-004の計算には、施用後の実測が組み込まれていないため(ver.2.1の原文で確認)、この量は見込みであり、100年間の残存を測って確かめたものではありません。農業上の効果や、プロジェクト全体の環境負荷の小ささも、AG-004が対象とする範囲の外です。

この違いが分かると、実務で次の点を確認できます。

  • クレジットを使う側は、「何を主張しているか」を確認する。「カーボンネガティブ」のような強い言葉は、既定値にもとづく見積りとの間に距離があります。クレジットを活用した排出量の相殺と、製品そのものの環境性能の主張は、別の主張として区別して書くほうが、根拠との対応を保てます。
  • 版(バージョン)を確認する。係数は「検証申請時の最新のもの」を使うため、時期によって値が変わりえます。すでに発行されたクレジットが後から修正されるかどうかは、AG-004の本文からは分かりません。
  • 原料の「未利用」の確認が、誰の、どのような文書にもとづいているかを見る。
  • 環境価値の主張は、LCAなど別の根拠と切り分けて確認する。グリーンウォッシュを避ける確認の仕方は、環境訴求を見たら、まず何を確認するかでも整理しています。

まとめ

AG-004(ver.2.6)は、農地の鉱質土壌への施用、国内産で未利用の原料、製炭温度350℃超の実測、10年間の補填義務といった条件を要求しています。計算には、インベントリ報告書やIPCCの既定値を使い、ベースラインはゼロ、追加性の評価は不要という前提を置いています。

AG-004だけでは評価できないのは、実際の長期の残存、農業上の効果、原料の「未利用」の実質、CO2以外を含む排出の全体像、クレジットの価格です。制度が「証明していない」とまで断定できるのは、実測や効果といった、方法論の目的の外にある事項に限られます。

次に確認したい点は、インベントリ報告書の係数が改訂されるかどうかと、それに応じてAG-004の既定値が変わるか、そして、バイオ炭の残存性について、国内の圃場データが方法論の議論に反映されるかです。

関連する記事として、バイオ素材の認証が何を証明しているかは、バイオ素材の認証マークは何を証明しているのかで、環境負荷の主張を確認する見方は、LCAの主張、何を確認するかで扱っています。農業残渣の用途の競合は、農業残渣は土に還すべきか、飼料・エネルギーに回すべきかで触れています。

参照資料

  • J-クレジット制度「方法論 AG-004(Ver.2.6)バイオ炭の農地施用」(2026年8月14日改定。適用条件、制定・改定の履歴、係数の表、付記の記述). japancredit.go.jp
  • 農林水産省「方法論 AG-004(ver.2.1)バイオ炭の農地施用」(式、排出活動の表、モニタリング方法、未利用証明書の例). maff.go.jp
  • J-クレジット制度「方法論」(方法論の一覧と、AG-004が2.6であること。2026年10月6日更新). japancredit.go.jp
  • Biochar Today「Should policy define biochar persistence over centuries rather than millennia?」(2025年12月1日。Schmidtら「Biochar permanence: A policy commentary」(GCB Bioenergy 17, e70092, 2025)を紹介した記事。論文本文は未確認). biochartoday.com

このテーマの読む順番を見る →