EUバイオエコノミー市場条件ウォッチ——制度変更が実際の事業条件をいつ変えるかを追う
EUDR・RED III・ReFuelEU航空規則・EUバイオエコノミー戦略の実施状況を継続的に確認するFOLLOWページです。バイオエコノミー関連企業の市場アクセス・原料調達・製品要件を実際に変える制度変更だけを対象にします。
「EUDRがまた延期された」「CBAMの本格適用が始まった」——EUのバイオエコノミー関連規制は、発表・延期・簡素化を繰り返しており、一度読んだ記事の情報がいつの間にか古くなっていることがあります。このページは、EUDR・RED III(バイオマス持続可能性基準)・ReFuelEU航空規則・EUバイオエコノミー戦略という、バイオエコノミー関連企業の市場アクセス・原料調達・製品要件を実際に変える制度変更だけを継続的に確認するFOLLOWです。
最終確認日:2026年9月16日(初回公開)
次回確認予定:2026年10月中旬、または適用日変更・重大な制度改正を検知次第
このFOLLOWが観測する範囲
観測対象(Observation Scope):EUの制度変更のうち、バイオエコノミー関連企業(発酵・バイオものづくり、バイオベース素材、バイオ燃料、未利用資源・バイオマス、食・農業の各分野)の市場アクセス・原料調達要件・製品要件・商業条件を直接変えるものに限定します。「EUのサステナビリティ規制」全般を扱う一般的なトラッカーにはしません。
採用基準(Inclusion Criteria):EUR-Lex・欧州委員会・欧州議会等の一次情報、または信頼できる専門メディアの報道に基づき、適用日・対象範囲・義務内容の変更が確認できるものに限ります。観測対象と判断した制度は、その理由とともに次節で明示します。
意味のある変化の定義(Meaningful Change):適用日の変更、対象範囲・基準値の変更、委任法令(delegated act)・実施規則の採択、執行の開始、簡素化・改正の発効。単なる政治的発言、審議中の非公式な観測記事は対象外とします。
追跡する制度は、拘束力の性質が異なる2種類に分かれます。 一方は、適用日・基準値・義務内容が法的に確定しており、違反に罰則が伴う拘束力のある実施制度(EUDR・RED III・ReFuelEU航空規則)です。もう一方は、今後の政策の方向性を示す戦略・政策シグナル(EUバイオエコノミー戦略)で、それ自体は企業に直接の義務を課さず、今後数年かけて具体的な実施措置・委任法令へ分解されていく文書です。両者を同列の「規制」として扱うと、まだ確定していない政策方向性を、既に確定した義務であるかのように誤解させるおそれがあります。下記の各項目には、どちらの性質かを明記します。
対象外とする制度とその理由
CBAM(炭素国境調整メカニズム)・CSRD(企業サステナビリティ報告指令)・CSDDD(企業サステナビリティ・デューデリジェンス指令)は、いずれもEUの重要な環境・サステナビリティ規制ですが、本FOLLOWの対象には含めません。
- CBAM:対象品目は鉄鋼・セメント・アルミニウム・肥料・電力・水素であり、バイオエコノミー関連の原料・製品を直接対象としていません。バイオ由来製品と化石由来製品の間接的なコスト競争力に影響しうる可能性はありますが、バイオエコノミー企業の市場アクセス・原料調達要件を直接変える制度ではないため、対象外とします(詳細はCBAM・EUDR・比較整理を参照)
- CSRD・CSDDD:全業種に適用される横断的な情報開示・デューデリジェンス義務であり、バイオエコノミーに固有の市場条件を設定するものではありません。バイオエコノミー企業も対応が必要ですが、これは「バイオエコノミー市場条件の変化」ではなく「企業一般の開示・デューデリジェンス義務の変化」であるため、本FOLLOWでは扱いません
この区別により、本FOLLOWは「EU規制全般トラッカー」ではなく、バイオエコノミー市場そのものの条件変化に焦点を絞ります。
現在の状態
EUDR(EU森林破壊防止規則)——適用日
制度の性質:拘束力のある実施制度(適用日・義務内容が確定、違反に罰則あり)
現在の状態:2026年12月30日(大企業・中堅企業)/2027年6月30日(小規模・零細事業者)から適用
牛肉・大豆・パーム油・木材・コーヒー・カカオ・ゴムとその加工品について、森林破壊地由来でないことの証明を義務付ける規則です。当初2024年12月30日とされていた適用日は、2025年12月30日への延期を経て、2025年12月17日に欧州議会が採択した改正規則(Regulation (EU) 2025/2650)により、さらに2026年12月30日(小規模・零細事業者は2027年6月30日)へ再延期されました。この改正は2025年12月23日にEU官報(OJ)掲載により発効しています。
確認できる事実:2025年12月17日の欧州議会採択、2025年12月23日の官報掲載・発効、新しい適用日(大企業・中堅企業2026年12月30日、小規模・零細事業者2027年6月30日)。低リスク国の零細・小規模一次事業者向けの簡素化措置(継続的なデューデリジェンス声明提出の免除等)も同時に導入されています。 次回確認ポイント:欧州委員会は2026年4月30日までに簡素化に関する評価報告書を提出する義務を負っており、これに伴う追加の法改正提案があるかを次回確認します。
RED III(再生可能エネルギー指令)——バイオマス持続可能性基準
制度の性質:拘束力のある実施制度(基準値が確定・既に施行中)
現在の状態:GHG削減基準が2026年1月1日から80%へ引き上げ
RED III(指令(EU) 2023/2413)は、発電・熱・冷房向けの固体バイオマス燃料について、化石燃料比でのGHG(温室効果ガス)削減基準を、2026年1月1日から80%に引き上げました(2023年以降に稼働した設備が対象)。総熱入力7.5MW以上の設備で使用する固体バイオマス燃料は、新規事業者について認証が義務化されています。2018年指令(RED II)時点の基準に基づく既存設備には、2030年12月31日まで旧基準の適用を認める経過措置(グランドファザリング条項)があります。
確認できる事実:GHG削減基準80%への引き上げが2026年1月1日から施行されていること、7.5MW以上設備の認証義務化、2030年までの経過措置の存在。 次回確認ポイント:この基準がEU域内の輸入バイオマス(日本を含むアジアからの木質ペレット等)の調達条件にどう波及するかは、今後の確認事項とします。
ReFuelEU航空規則——SAF(持続可能な航空燃料)混合義務
制度の性質:拘束力のある実施制度(混合比率が確定・既に施行中、罰則あり)
現在の状態:2025年から2%義務化、2030年6%へ段階拡大
EU域内空港での航空燃料供給事業者に対し、2025年1月から持続可能な航空燃料(SAF)を最低2%混合することを義務付けています。2030年には6%まで引き上げられる予定です。業界団体の報告では、2025年の2%目標達成に向けて業界は順調に進んでいるとされています。SAFは化石燃料に比べて2〜4倍のコストとされ、義務を満たせない燃料供給事業者・航空機運航者には罰則が科されます。
確認できる事実:2025年1月からの2%義務化開始、2030年6%への引き上げ予定、罰則規定の存在。 未確認事項:2025年の実際の混合率が2%目標を達成したかどうかの独立した検証データは、本稿執筆時点では確認できていません(業界団体の見通し発言のみ)。 関連記事:SAFの供給不足はなぜ起きるのか、バイオエコノミーは自社に何を意味するのか
EUバイオエコノミー戦略(COM(2025)960)——実施状況
制度の性質:戦略・政策シグナル(企業への直接の義務ではなく、今後の政策の方向性を示す文書)
現在の状態:戦略枠組みを2025年11月27日に採択。実施措置は2026〜2028年に順次予定
欧州委員会は2025年11月27日、新しいバイオエコノミー戦略(COM(2025)960、“A Strategy for a Competitive and Sustainable EU Bioeconomy”)を公表しました。この戦略自体は今後の政策の方向性を示す枠組み文書であり、企業に具体的な義務を直接課すものではありません。 上記3制度(拘束力のある実施制度)とは性質が異なり、それらを生み出す上位の政策方向性として理解してください。今後2026〜2028年にかけて、製品政策・標準化に関連する実施措置・委任法令(delegated act)が順次採択される見通しです。具体的に予定されている施策として、欧州バイオエコノミー規制当局・イノベーター・フォーラム(2026年)、バイオエコノミー投資展開グループ(2026〜2028年)、2030年までに100億ユーロ規模の集合的オフテイクを目指す「Bio-based Europe Alliance」(CCTパイロット)が挙げられています。
確認できる事実:戦略の採択日(2025年11月27日)、今後2026〜2028年に実施措置が予定されていること、上記3施策の名称と目標時期。 未確認事項:各実施措置・委任法令の具体的な採択日・内容は、本稿執筆時点ではまだ確定していません。今後の確認対象とします。
更新の仕組み
このページは同一URLを更新する形で運用します。適用日の変更、基準値の変更、委任法令・実施規則の採択等の意味のある変化が確認され次第、本文と下記の更新履歴を書き換えます。
更新履歴
- 2026-09-16:初回公開。EUDR(適用日)、RED III(バイオマス持続可能性基準)、ReFuelEU航空規則(SAF混合義務)、EUバイオエコノミー戦略(実施状況)の4項目を追跡開始。
まとめ
EUのバイオエコノミー関連制度は、延期・簡素化・段階的な実施措置の追加が続いており、一度確認した情報がすぐに古くなります。このページでは、CBAM・CSRD・CSDDDのようなバイオエコノミーに固有ではない横断的な規制を除き、EUDR・RED III・ReFuelEU航空規則・EUバイオエコノミー戦略という、バイオエコノミー関連企業の市場条件を直接変える制度変更だけを継続的に確認します。
参照資料
- European Commission.「A Strategy for a Competitive and Sustainable EU Bioeconomy」COM(2025) 960 final(2025年11月27日). eur-lex.europa.eu
- EUR-Lex.「Regulation (EU) 2025/2650 amending Regulation (EU) 2023/1115(EUDR改正規則、一次情報)」. eur-lex.europa.eu
- EUR-Lex.「Directive (EU) 2023/2413(RED III、一次情報)」. eur-lex.europa.eu
- EUR-Lex.「Regulation (EU) 2023/2405(ReFuelEU Aviation、一次情報)」. eur-lex.europa.eu
- CMS Law.「EU resets the countdown on the EUDR and postpones the Regulation once again」. cms.law
- Norton Rose Fulbright.「Update on EU Deforestation Regulation (EUDR): Towards simplified implementation」. nortonrosefulbright.com
- Control Union.「Navigating RED III: The Impact of the EU’s Latest Renewable Energy Legislation on Biomass Certification」. controlunion.com
- European Union Aviation Safety Agency (EASA).「Sustainable Aviation Fuels」. easa.europa.eu
- Ashurst / AOShearman.「EU Bioeconomy Strategy 2025: Regulatory Signals for Supply Chains, Investment and Sustainability」. aoshearman.com