今週のバイオエコノミー #6|設備を、新しく建てる。買って使う。
英国のMycofeastが、ニュージーランドの精密発酵の新興企業Daisy Labを買収しました。静岡県の富士山麓では、牛ふんを使うバイオガスの発電所が運転を始めました。米国では、止まっている再生燃料の工場を買って、再稼働する計画が発表されました。今週の3つの動きを、確認できたことと、まだ分からないことに分けて紹介します。
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「今週のバイオエコノミー」は、世界のバイオエコノミーで実際に動いた変化を、確認できたことと、まだ分からないことに分けて紹介するコーナーです。今週押さえておきたいのは、英国の企業による精密発酵の新興企業の買収、富士山麓のバイオガス発電所の運転開始、米国の再生燃料工場の買収契約の3つです。どれも、「設備をどう手に入れるか」に関わる動きです。新しく建てる、買う、買収した会社の設備へ移す。3つは、状況が違います。
今週、まず見ておきたい
英国のMycofeastが、ニュージーランドの精密発酵企業Daisy Labを買収した
精密発酵は、酵母などの微生物に、特定のタンパク質などを作らせる技術です。10月15日、英国の産業バイオ企業Mycofeastが、ニュージーランド・オークランドの新興企業Daisy Labを買収したと発表しました。買収額は公表されていません。
Daisy Labは、2021年に創業した会社です。酵母を使って、牛乳に含まれるタンパク質(ラクトフェリン)を作る研究を進めてきました。報道によると、今年の第1四半期に、500リットルの発酵槽を自社に設置し、その規模での生産と、精製の工程の拡大に取り組んでいます。2024年には、5,000リットルまで拡大する承認を、現地の環境当局から得た、とvegconomistは伝えています。
注目したいのは、買収に至った理由です。Daisy LabのCEOは、資金の調達が難しいことと、食品・バイオ分野の市場の状況が、買収の話につながった、と述べています。自社が売却の手続きを進めていたわけではなく、話が自然に買収へ進んだ、とも説明しています。vegconomistには、新興企業が、技術の周りに必要な能力を、すべて自力でそろえようとすることは、合理的ではなくなる、という趣旨の発言も載っています。
買収後の見通しは、次のとおりです。今後12か月で、規制の申請、顧客との試験、Mycofeastの工場への生産の移転を進める計画です。人員の削減は、予定されていません。
Green Queen Mediaは、代替タンパク質の分野で、2024年9月以降、合併、買収、倒産、閉鎖に至った会社が90社を超える、と報じています(同媒体の集計で、本稿では確認していません)。
ここまでで確認できるのは、精密発酵の新興企業が、パイロット規模のうちに、より大きな会社の傘下に入り、生産をその会社の工場へ移す計画だ、ということです。買収額、Daisy Labの資金の状況、商業販売に必要な規制の承認がいつ得られるのかは、確認できていません。資金の面の壁は、なぜ実証に成功しても、工場を建てるお金が集まらないのかで整理しています。
次に見るのは、Daisy Labの規制の申請が出るか、顧客との試験が始まるか、そして、Mycofeastの工場で生産が始まるかどうかです。
まだここ:買収、パイロット規模、規制申請はこれから
ほかにも、こんな変化が。
富士山麓で、牛ふんを使うバッチ式乾式メタン発酵プラントが運転を開始
静岡県富士宮市で、10月21日に、「富士山バイオマス乾式メタン発酵プラント」の運開式が開かれ、運転が始まりました。鴻池組、静岡ガス&パワー、クラフティア、ビーエイブル、富士バイオテック、KSバイオマスエナジーの6社が参画しています。
発表によると、主な原料は乳牛のふんです。ドイツのBEKON社の、バッチ式(原料を入れ替えながら一定期間ごとに発酵させる方式)の乾式メタン発酵で、発酵槽は5つです。水分の少ない原料を、密閉した槽に入れ、約3週間かけて発酵させます。前処理や排水処理の設備が不要で、撹拌の動力も使わない、と説明されています。作ったバイオガスで発電し、電気はFITで売ります。発酵のあとの消化液は循環して使い、残りかすは堆肥にします。「日本初」というのは、鴻池組の自社調べです。
一方、発表には、処理できる量、発電の出力、事業費、売電の価格は、書かれていません。家畜のふん尿を使うメタン発酵は、消化液の行き先や設備の費用が課題になります。その条件は、家畜のふん尿は年7,700万トン。約8割が農業に使われる一方、堆肥に余剰感のある地域があるのはなぜかで整理しました。
まだここ:運転開始、採算の確認はこれから
米国の新興企業が、止まっている年産5,000万ガロンの再生燃料工場の買収契約を発表
米国のXCF Globalは、10月20日、カリフォルニア州パラマウントにある、再生燃料の工場を買収する契約を発表しました。年産で約5,000万ガロンの、SAF(持続可能な航空燃料)、再生ディーゼル、ナフサを作れる設備です。同社は、この工場を9〜12か月かけて再稼働させる計画で、約3,000万ドルを、主に人員の訓練と運転の準備に使う、としています(発表は、現在の稼働状況を、再稼働の計画から読み取れる形でしか書いていません)。原料の調達と、燃料の販売は、提携先に頼る計画です。
買収は、完了の条件を満たせば、2026年末までに完了する見込みですが、まだ完了していません。売り手の名前、買収の価格、資金の調達方法は、発表に書かれていません。同社は、リスクとして、買収の統合や資金調達のほか、同社の別の工場(ネバダ州リノ)をめぐる、土地の貸主や主な貸し手との紛争を挙げています。年間の売上高などの目標も示されていますが、これは同社の見込みです。
まだここ:契約発表、完了と再稼働はこれから
3つを並べると
Daisy Labは、会社ごと買われ、生産を、買収した会社の工場へ移す計画です。米国の再生燃料工場は、別の会社が、設備を買って、再稼働しようとしています。富士山麓のプラントは、新しい方式の設備を建てて、運転を始めたところです。設備の手に入れ方は、3つとも違います。
今週確認できたのは、買収の発表、買収契約の発表、運転の開始までです。買収額、売り手と価格、プラントの処理量や採算は、確認できていません。設備が手に入ることと、その設備で事業が成り立つことは、別の話です。
次に見たいのは、Daisy Labの規制の申請と顧客との試験、XCF Globalの買収の完了と再稼働、富士山麓のプラントの稼働率と採算に関する情報です。
今回確認した主な情報源
- Green Queen Media「Mycofeast Snaps Up NZ Precision-Fermented Dairy Protein Startup Daisy Lab」(2026年10月15日). https://www.greenqueen.com.hk/?p=89214
- vegconomist「Mycofeast Buys Daisy Lab, Bringing New Zealand Lactoferrin Developer Into Its Fermentation Group」(2026年10月15日). https://vegconomist.com/investments-finance/mycofeast-buys-daisy-lab-bringing-new-zealand-lactoferrin-developer-fermentation-group/
- 鴻池組「日本初の『バッチ式乾式メタン発酵設備』が富士山麓で稼働開始」(2026年10月21日、プレスリリース). https://www.zaikei.co.jp/releases/3675428/
- クラフティア「『富士山バイオマス乾式メタン発酵プラント』の運転開始について」(2026年10月21日、プレスリリース). https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000110.000137972.html
- XCF Global「XCF Global Announces Agreement to Acquire Paramount, California Renewable Fuel Production Facility」(2026年10月20日、プレスリリース). https://www.newswire.com/news/xcf-global-announces-agreement-to-acquire-paramount-california-renewable-fuel