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資源・循環

家畜のふん尿は年7,700万トン。約8割が農業に使われる一方、堆肥に余剰感のある地域があるのはなぜか

日本で1年に出る家畜排せつ物は、約7,740万トンです。農林水産省の資料(令和8年9月)によると、約8割が堆肥などとして農業に使われています。それでも、堆肥に余剰感のある地域があり、メタン発酵には消化液の行き先という条件があります。数字の中身と、使い方ごとの条件を、資料から整理します。

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牛舎と堆肥の山、畑、小さな発酵槽を並べた、抽象的なイメージ

日本の家畜は、1年に約7,740万トンのふん尿を出します。農林水産省の資料では、その約8割が、堆肥などとして農地に戻されています。数字だけを見ると、ほとんど使われているように見えます。それでも、同じ資料は、堆肥の広域流通や、メタン発酵の難しさを、課題として挙げています。「8割使われている」の中身は何で、残りの2割と、使われ方の偏りは何を意味するのか。資料から読みます。

年7,740万トンの内訳と、使われ方

農林水産省の「畜産環境をめぐる情勢」(令和8年9月)によると、全国の家畜排せつ物は、近年8,000万トン程度で推移し、令和8年は約7,740万トンです。乳用牛、肉用牛、豚の飼養頭数が減ったため、わずかに減りました。

畜種発生量(万トン)割合
肉用牛2,28229.5%
乳用牛2,08727.0%
豚2,00926.0%
採卵鶏7679.9%
ブロイラー5937.7%

牛と豚で、約8割を占めます。使われ方は、次のとおりです(畜産統計と実態調査をもとにした農林水産省の推計。四捨五入のため合計は一致しません)。

使われ方割合例
農業利用78.9%堆肥化、貯留、乾燥、放牧
浄化処理11.7%産業廃棄物処理、公共下水道への放流
エネルギー利用5.8%焼却、メタン発酵
その他3.7%

「8割」の中身と、地域の偏り

「農業利用」には、堆肥にして畑に入れることだけでなく、貯留、乾燥、放牧も含まれます。つまり、約8割は「農業に利用されている」と区分された量で、貯留など、農地に入った量とは限らないものも含みます。その堆肥が、作物の肥料として十分に生かされているかまでは、この数字からは分かりません。

資料が指摘する課題は、地域の偏りです。耕地の面積あたりの家畜排せつ物の発生量(リンで換算。リンは肥料の成分の一つで、畑に入れすぎると水質への影響が心配されます)は、畜産が盛んな地域に偏っています。全国の平均は、1ヘクタールあたり約30キログラムのリンですが、地域によって、20キログラム未満から60キログラム以上までの幅があります。資料は、堆肥に余剰感のある地域では、耕種農家(作物をつくる農家)のニーズに合わせた堆肥づくりと、広域での流通が大切だとしています。

流通の例として、資料は、熊本県の農協が、県内外の農協と組んで品質を上げ、運搬の費用を下げながら、広域の流通を進めている例を挙げています。また、牛ふん堆肥をペレット(粒状)にして、肥料メーカーが化学成分を足し、別の県で売る例もあります。ただし、資料は、ペレット化は、運びやすく扱いやすい一方で、技術と採算を、あらかじめ十分に検討する必要がある、と書いています。

複数の畜産農家の排せつ物を、まとめて処理する「堆肥センター」は、全国に415か所あります(令和5年の調査)。設置者は、県・市町村が50%、農協・農協連が36%です。

堆肥を使いやすくする仕組み

堆肥は、肥料成分が少なく、肥効(効き方)が安定しにくいという面があります。これを補う仕組みとして、資料は、令和2年12月に新設された「指定混合肥料」を紹介しています。堆肥と化学肥料を混ぜた肥料を、届出で作れる制度です。

資料によると、この制度には、次の特徴があります。

  • 耕種農家は、土づくりと施肥を1回の作業で済ませられます。
  • 堆肥の成分の不足を、化学肥料で補って安定させられます。
  • 原料にできる堆肥の条件は、含水率が50%以下であることです。
  • 造粒や加熱乾燥の特別な設備を持たない畜産農家でも、作れます。

資料は、これによって堆肥の利用が進み、畜産農家の副産物収入が増えると「考えられる」と書いています。効果の実績は、この資料には示されていません。

堆肥の国内資源としての位置づけは、堆肥や下水汚泥は、輸入肥料原料をどこまで置き換えられるのかで整理しています。

エネルギー利用は5.8%(焼却とメタン発酵の合計)

堆肥にするほかに、家畜排せつ物から、メタンガスを取り出して発電や熱利用に使う「メタン発酵」があります。資料の施設数の推移は、次のとおりです。

年メタン発酵の施設数うち発電
平成23年7447
平成24年(FIT開始)9063
平成30年186162
令和3年221180

平成24年に、再生可能エネルギーの固定価格買取制度(FIT)が始まり、事業の採算が良くなって、施設が増えた、と資料は説明しています。ただし、施設数は令和3年までの数字で、平成24年以降は、FITの認定を受けて稼働する予定の施設を含み、調査の時点は年によって異なる、と資料に注記があります。令和5年度の売電の単価は、メタン発酵で1キロワット時あたり35円(税別)です。

一方、資料は、メリットだけでなく、デメリットも十分に調べるよう求めています。メタン発酵のデメリットとして、施設の整備費が高いこと、発酵のあとに残る「消化液」の散布先を確保しなければならないこと(散布できなければ浄化処理が必要)、高度な運転管理の技術が必要なことを挙げています。

基本方針の書き方も、条件つきです。資料は、消化液などの利用先が確保でき、施設の整備費や維持費を十分に勘案して、持続できると判断される場合に、バイオマス発電は「有力な選択肢になる」としています。また、FITからFIP(電力市場と連動した買取制度)への移行が段階的に進んでいる点にも、注意を促しています。

エネルギー利用は、全体の5.8%(焼却とメタン発酵の合計)にとどまります。メタン発酵について、資料の書き方は、設備を建てるだけでなく、消化液の行き先や費用の見極めが条件になる、というものです。5.8%のうち、焼却とメタン発酵がそれぞれどれだけかは、この資料では分かりません。

目標と、資料で分からないこと

資料は、令和7年4月に策定された新しい基本方針が、令和12年度を目標に、国内肥料資源としての有効活用、エネルギー利用、環境規制への対応、地球温暖化対策の4つの方向を整理した、と説明しています。

関連する国の目標として、資料は、2022年12月の食料安全保障強化政策大綱を挙げています。2030年までに、化学肥料の使用量を20%減らす、堆肥と下水汚泥資源の使用量を倍増する、肥料の使用量(リンベース)に占める国内資源の割合を40%(2021年は25%)に上げる、というものです。

ただし、この資料から分からないことがあります。

  • 堆肥の質と実際の肥効。 「農業利用」の割合は、堆肥が肥料として十分に生かされた割合ではありません。
  • 目標の達成状況。 基本方針や大綱の目標に対する、現在の進み具合は、この資料には示されていません。
  • 環境面の負荷。 資料には、畜産に関する苦情が令和7年に1,251戸あり、その過半が悪臭だと書かれています。資源として使うことと、周辺の環境への配慮は、一緒に考える必要があります。

まとめ

  • 日本の家畜排せつ物は年約7,740万トンで、約78.9%が農業に利用されています。エネルギー利用は5.8%です。
  • 「8割が農業利用」は、堆肥が肥料として生かされた割合ではありません。資料が課題とするのは、畜産が盛んな地域への偏りと、堆肥の広域での流通です。
  • 堆肥と化学肥料を混ぜる「指定混合肥料」は、堆肥を使いやすくする仕組みですが、効果の実績は資料に示されていません。
  • メタン発酵は、施設の整備費、消化液の行き先、運転の管理という課題があり、資料は、条件がそろえば有力な選択肢になる、と書いています。

次に見たいのは、基本方針の目標(令和12年度)に対する進み具合と、広域流通やペレット化が採算に合うのか、です。

参照資料

  • 農林水産省 畜産局 畜産振興課.「畜産環境をめぐる情勢」(令和8年9月。発生量、畜種別の内訳、利用状況、地域の偏り、堆肥センター、メタン発酵の施設数、指定混合肥料、基本方針と国の目標、苦情の件数). maff.go.jp

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