捨てるはずだった油が、新品の油より2倍以上高い。バイオ燃料が起こす資源の奪い合い
航空燃料の原料として需要が急増した廃食用油が、未使用のパーム油より高値で取引される「価格逆転」が起きている。原料は誰が確保するのか、日本の供給計画は本当に足りるのかを読み解く。
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天ぷら油や揚げ物に使った後の廃食用油は、これまで「処理費を払って引き取ってもらうもの」でした。ところが今、航空機の燃料(SAF、持続可能な航空燃料)の原料として奪い合われるようになり、新品の未使用パーム油より高い値段がつくことが起きています。この記事を読むと、なぜ「廃棄物」が「新品」より高くなるのか、そして日本のSAF供給計画は本当に原料を確保できるのかが分かります。答えの核心は、バイオ燃料の需要拡大が、飼料・食品業界も含めた既存の油脂利用のあり方全体を静かに組み替えつつあることにあります。
「廃棄物」が「新品」より高い、価格逆転の中身
2026年9月、日経ビジネスは「航空燃料SAFが脅かす食料安保 パーム油価格2.2倍、食品メーカーに打撃」という見出しで、廃食用油(UCO、Used Cooking Oil)が未使用のパーム油より高値で取引される「価格逆転」を報じました。記事本文は有料会員限定のため、価格の算出期間や比較条件までは確認できていませんが、見出し自体が示す「2.2倍」という数字と、食品メーカーへの打撃という論旨は公開情報として読み取れます。
これまで廃食用油は、飲食店や食品工場が処理費を払って引き取ってもらう存在でした。それが今、航空機の燃料(持続可能な航空燃料=SAF)の原料として引く手あまたになり、価格が逆転するところまで来ている——これが今回の変化の核心です。
なぜ廃食用油が奪い合われるのか
答えは単純で、需要が供給の伸びより速く拡大しているからです。日本政府は2030年までに、国内航空会社が使用する燃料の10%(約170万キロリットル)をSAFに置き換える目標を掲げており、同様の目標は世界各国にもあります。
廃食用油の国内発生量は業界推計で年間40万トン前後、うち概ね4分の1が既に海外へ輸出されているとされています(2023年時点の業界報道)。既存の需要家である飼料メーカーなどは、SAF向け需要の増加によって同じ原料を取り合う立場に置かれつつあります。技術的にSAFを作れることと、その原料を安定して確保できることは別の問題です。
日本の供給計画は「数字の上」では足りている
ここで意外なのは、日本のSAF供給計画そのものは、数字上は目標を下回っていないという点です。石油元売り各社が公表している計画を積み上げると、2030年の国内SAF供給見込みは約192万キロリットルとなり、目標(約170万キロリットル)を上回ります。
問題は「量の目標を達成できるか」ではなく、「その量を支える原料を実際に確保できるか」です。経済産業省 資源エネルギー庁自身が、この供給計画には原料確保・技術開発等の「不確実性」があると明記しています(2026年4月時点)。計画上の数字が目標を上回っていても、原料の裏付けが伴っていなければ絵に描いた餅になりかねません。UCOの既存需要家である飼料メーカーにとっては、この原料調達競争が価格・確保量にどう影響するかが、供給計画の規模そのものより実務上の焦点になります。
奪い合いは世界でも起きている
同じ構図は国境をまたいでも見えます。中国は世界最大級のUCO産出国で、2024年時点の分析では年間160万トン程度を輸出し、その多くが欧州向けとされていました。ところが中国政府は2024年12月、UCO輸出に対する13%の増値税還付を廃止しました。原料のまま海外へ出すより、国内でバイオディーゼル・SAFに精製してから輸出する方が有利になるよう仕向けたかたちです。
欧州側も2025年2月から、中国由来のバイオディーゼル・SAF(香港のEcoCeres社を除く)に対して10〜35.6%の反ダンピング関税(不当に安い価格での輸出だと判断した際に、対抗して上乗せする関税)を本格適用しました。これを受け、中国側はマレーシア・シンガポールなど欧州以外への輸出を急速に拡大させています。日本国内の価格逆転も、こうした原料そのものを巡る国際的な綱引きの延長線上にある動きだと見ると、位置づけが見えてきます。
なお中国の還付廃止については、米国農務省(USDA FAS)の貿易レポートや業界専門誌Biodiesel Magazineも独立に確認しており、実際に2024年12月の中国産UCO輸出量が急減したことが報告されています。単なる方針発表で終わらず、実際の貿易量にも影響が出ている変化です。
まとめ
廃食用油がパーム油より高くなる——この一見小さな価格逆転は、「バイオ由来だから望ましい」という単純な話では終わりません。誰が原料を確保できるか、そして税制・関税という政策がその配分をどう左右するかという、2つの軸で読む必要があります。日本のSAF供給計画は数字上、目標を上回っていますが、経済産業省自身が原料確保の不確実性を認めています。中国の税制転換や欧州の関税措置も、同じ「原料の奪い合い」を別の角度から裏付けています。
次に見るべきは、この価格逆転が一時的な需給の偏りで終わるのか、それとも飼料・食品業界の調達コストを継続的に押し上げる構造変化になるのかです。廃食用油の国内輸出量や取引価格の推移は、その判断材料になります。
廃食用油を既存原料として使ってきた飼料メーカーなどにとっては、SAF事業者との調達競争が価格・確保量にどう跳ね返るかが実務上の焦点になります。中国のように政策一つで輸出フローの向きが変わる以上、原料調達を単一の国・単一の経路に依存しない体制づくりが、当面の現実的な備えになりそうです。
参照資料
- MIRU, SAF狂想曲に揺れる日本の廃食用油(中)〜SAF需要増に従来のUCO需要家はどうする?(2023-06-29)
- ビジネスジャーナル, 日本のSAF生産目標と企業動向(2026-04-19)
- JOGMEC, 中国のUCO輸出と欧州の需要(2024-06-21)
- 日経ビジネス, 航空燃料SAFが脅かす食料安保 パーム油価格2.2倍、食品メーカーに打撃(2026-09-01、本文は有料会員限定のため見出し・冒頭部分のみ確認)
- 資源エネルギー庁, 持続可能な航空燃料(SAF)に関する取組の現状(2026-04-17)
- BAUM Consult Japan, 中国由来のHVOを含むバイオ燃料のダンピングに対する確定課税が欧州で発効(2025-03-14)
- ジェトロ, 転換を迎える中国の次世代燃料市場(2026-03-11)
- USDA FAS, UCO Export Tax Rebate Terminated(米国農務省、中国のUCO輸出還付税廃止に関する公式貿易レポート)
- Biodiesel Magazine, Report: Chinese UCO exports fall sharply in December(還付廃止後の実際の輸出減少を報じる業界専門誌)