bioeconomy.jp
基礎解説

バイオスティミュラントは、肥料でも農薬でもない新しい資材なのか——日本のガイドラインが決めたことと、決めていないこと

海藻抽出物や微生物などを使い、作物の暑さへの強さや養分の吸収を助ける「バイオスティミュラント」。農林水産省は2025年5月に表示のガイドラインを出しましたが、法律上の新しい区分を作ったわけではありません。農薬や肥料の効果をうたえば、登録や届出が必要になります。定義、書いてよい表示、効果の根拠に求める試験の条件を、資料から整理します。

バイオエコノミーの最新の動きは Xでも追っています →

芽の出た苗と、液体の入った容器、書類を並べた、抽象的なイメージ

「バイオスティミュラント」と書かれた農業資材を、見かけるようになりました。海藻のエキスや微生物などを使い、作物の暑さへの強さや、養分の吸収を助ける、という説明が多いようです。では、これは肥料なのか、農薬なのか。農林水産省は2025年5月に、この資材の表示のガイドラインを出しました。ただし、そこで法律上の新しい区分が作られたわけではありません。ガイドラインが決めたことと、決めていないことを、資料から整理します。

どんな資材として定義されたのか

ガイドラインは、2025年5月30日付けの農林水産省消費・安全局長の通知です。バイオスティミュラントを、次のように定義しています。

  • 農作物や土に施して、作物やその周りの土がもともと持つ機能を補助する資材
  • 資材自体が持つ栄養成分とは関係なく、土の養分の吸収されやすさ、作物の養分の取り込み・利用の効率、乾燥・高温・塩害などのストレスへの強さを改善するもの
  • その結果として、作物の品質や収量が向上するもの

農林水産省の解説資料(令和8年3月)は、原材料の例として、腐植物質、海藻抽出物、アミノ酸、ミネラル、微生物などを挙げています。定義は、欧州や米国の定義を参考にした、とされています。また、この資料は、バイオスティミュラントを「従来の農薬、肥料、土壌改良資材とは異なる新たなカテゴリーの生産資材」とも説明しています。ただし、次に述べるとおり、法律上の範囲が変わるわけではない、と明記しています。

ここで大事なのは、「資材自体の栄養成分とは関係なく」という部分です。肥料は、成分で作物を育てます。バイオスティミュラントは、作物や土のもともとの働きを助ける資材として整理されています。

新しい法律ではなく、既存の法律の上にある

ガイドラインは、新しい法律ではなく、局長通知です。資料は、目的を「事業者による自主的な取組を促す」ことと、使う人が目的に合った製品を選べるようにすることと説明しています。

さらに、資料は、この定義によって、既存の農薬、肥料、土壌改良資材の範囲が変わるものではない、と明記しています。

資材の種類根拠となる法律
農薬農薬取締法
肥料肥料の品質の確保等に関する法律(肥料法)
土壌改良資材地力増進法

「たとえ事業者がバイオスティミュラントとして扱う資材だとしても」、これらの法律に該当するものは、あらかじめ登録、届出、表示などを行う必要があります。「バイオスティミュラント」と名乗ることで、これらの手続きが免除されるわけではありません。

つまり、バイオスティミュラントは、法律の区分としては「肥料でも農薬でもない新しい資材」ではありません。ガイドライン上の整理で、実際の資材は、その中身や効果によって、農薬や肥料に該当することがあります。

効果を、何と書いてよいのか

ここが、実際の売り方に一番関わるところです。

ガイドラインは、バイオスティミュラントとしての効果(ストレスへの強さ、養分の吸収・利用の改善など)を、容器、包装、チラシ、ウェブページに表示するよう求めています。同時に、不当な表示にならないよう、景品表示法にも注意するよう書いています。

一方で、次の表示は避けるよう書かれています。

登録・届出がない場合に避ける表示例
農薬と誤認される効果病害虫や雑草の防除、作物の生理機能の増進・抑制
肥料と誤認される効果「植物の栄養となる」「土壌に化学的変化を生じさせる」

資料の「よくある質問」は、その例を挙げています。たとえば、病害虫の防除の効果がある資材は、バイオスティミュラントではなく農薬に該当し、農薬の登録がなければ販売できません。

さらに、ガイドラインは、次の注意も書いています。効果を表示しなくても、原材料、含まれる成分、使用方法から、農薬や肥料に該当することがあります。 何を書いたかだけでなく、何が入っていて、どう使うかも見られる、ということです。

効果の根拠に求められる試験

効果や使い方を表示するとき、事業者は、根拠となる情報を確認しなければなりません。試験の結果か、査読付きの学術文献などです。その栽培試験について、ガイドラインは、次の条件を挙げています。

  • 資材を施す区と、施さない区(対照区。比べるための基準になる区)を作り、ほかの条件(たとえば肥料成分の量)をそろえる。
  • それぞれの区を、3連以上(3回以上の繰り返し)で行う。
  • 収量、生体重、栄養成分の吸収量など、効果に合った数字で評価する。作物の写真も撮る。
  • 国内(または、気候や土が似た環境)で、品目、気候、土などの条件を1つ以上変えて、2例以上行う。

あわせて、原材料の名称と含有割合、資材を施したときに、ストレスに対して植物の体内で起こる反応を確認します。主な成分を分析するときは、3ロット以上を分析して、品質のばらつきを見ます。安全性については、農作物への影響は栽培試験で確認し、人への安全性は、食経験、文献、安全性試験のいずれかで確認します。

重要なのは、これらが「事業者が確認すること」だということです。ガイドラインには、国が個々の製品の効果を審査する仕組みは書かれていません。ガイドラインは、効果が出る条件や、出ない条件(使用上の注意)も表示するよう求めています。

この資材を見たときに確認すること

ガイドラインから、使う側・仕入れる側が確認できる点を整理します。ガイドラインの文言から導いた、本稿の整理です。

  • 効果が、「ストレスへの強さ」や「養分の吸収・利用の改善」の範囲に収まっているか。病害虫の防除や、栄養になるという書き方が、登録や届出なしにないか。
  • 標準的な使い方(作物、量、時期、回数)と、効果が出ない条件が書かれているか。
  • 求めたときに、栽培試験や原材料の情報が出てくるか。資料も、使う側が事業者に問い合わせ、情報が出るかどうかを判断材料にするよう書いています。

事業者の主張と、その根拠を分けて見る見方は、環境訴求を見たら、まず何を確認するかでも整理しています。

まとめ

  • 日本のバイオスティミュラントのガイドラインは、2025年5月の局長通知です。法律ではなく、事業者の自主的な取組を促すものです。
  • 定義は、作物や土のもともとの機能を助け、栄養成分とは関係なく、養分の吸収やストレスへの強さを改善する資材です。
  • 既存の農薬・肥料・土壌改良資材の範囲は変わりません。農薬や肥料の効果をうたう、あるいは成分や使い方がそれに当たると、登録や届出が必要になります。
  • 効果の根拠は、試験の結果か、査読付きの学術文献などで、事業者が確認します。栽培試験には、対照区、3連以上、2例以上などの条件が示されています。ガイドラインには、国が個々の製品を審査する仕組みは書かれていません。

農林水産省は、ガイドラインの遵守状況を調べ、その結果を踏まえて今後の対応を検討するとしています。資料には、調査の時期や、制度化するかどうかは書かれていません。次に見たいのは、その調査の結果と、ガイドラインが見直されるかどうかです。

参照資料

  • 農林水産省 消費・安全局長通知.「バイオスティミュラントの表示等に係るガイドライン」(令和7年5月30日付け7消安第1353号。定義、表示、根拠情報、安全性). maff.go.jp
  • 農林水産省 消費・安全局 農産安全管理課.「バイオスティミュラントの表示等に係るガイドラインについて」(令和8年3月、資料1。ガイドラインの趣旨、よくある質問、今後の予定). maff.go.jp

このテーマの読む順番を見る →