堆肥や下水汚泥は、輸入肥料原料をどこまで置き換えられるのか——「国内資源40%」の分母と分子
国内資源の利用割合を2030年に40%へ、という目標は、りんだけを数え、分母が縮む想定の数字です。窒素・りん・加里を分け、資源が「ある」ことと「使える」ことの違いを整理します。
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「国内資源の利用割合を、2030年に40%へ」。混同しやすい点は3つあります。数えているのは窒素・加里ではなくリンだけであること、肥料の製品の重さではなくリンの成分で数えること(リンベース)、そして分母が小さくなる想定であることです。確認できた農林水産省の資料では、割合の分母は「肥料の使用量(リンベース)」で、2021年の28.5万tから、2030年は25.1万tになる想定です。この記事では、40%という数字を分母と分子に分けて読み、堆肥や下水汚泥が輸入原料をどこまで置き換えられるのかを、窒素・りん・加里に分けて整理します。
「40%」の分母と分子
農林水産省の「肥料をめぐる情勢」(2026年8月)には、目標が次のように書かれています。肥料の使用量(リンベース)に占める国内資源の利用割合を、2021年の25%から、2030年に40%まで拡大する。この目標は、「食料安全保障強化政策大綱」で設定され(2022年12月決定、同じ資料では2023年12月に改訂)ています。
資料の図には、数字が3組あります。
- 2021年:国内資源が25%。図の下に「28.5万t」とあります。
- 2030年:国内資源が40%。図の下に「25.1万t」とあります。
- 国内資源のうち、堆肥・下水汚泥資源の使用量を倍増すると書かれています。
この28.5万tは、国内資源の量ではなく、肥料の使用量全体(分母)と読めます。 図には、国内資源の量そのものは書かれていません。そこで、図の数字から計算すると、国内資源の量は、2021年が28.5万t×25%で約7.1万t、2030年が25.1万t×40%で約10.0万tです。これはbioeconomy.jpの計算で、資料に書かれた数字ではありません。
ここから分かることが2つあります。
1つ目は、分母が縮むことです。分母が28.5万tから25.1万tに減る分は、肥料の使い方の効率化(図では「施肥効率化」)で説明されています。土壌診断で施肥量を減らす、といった取り組みです。この目標は、国内資源を増やすことだけでなく、使う量を減らすことも含んで成り立っています。
分母が縮む効果は、数字で確かめられます。2021年の分母28.5万tのままで国内資源が約10.0万tなら、割合は約35%です(bioeconomy.jpの計算)。40%のうち約5ポイントは、使う量が減ることで説明され、残りが国内資源の増加によると読めます。
2つ目は、数字の関係が資料だけでは読み切れないことです。計算上、国内資源の量は約1.4倍です。一方で、堆肥・下水汚泥の使用量は倍増と書かれています。この2つがどう整合するのか(国内資源に堆肥・下水汚泥以外が含まれるのか、倍増の起点がいつか)は、確認した資料から読み取れませんでした。また、「万t」がリンそのものの重さなのか、りん酸(P2O5)に換算した重さなのかも、資料には明記されていません。以下に出てくる「約5万t」「約30万t」「19万〜33万成分t」が、この目標の数字と同じ基準かどうかは、確認できていません。
2021年より新しい実績値も、今回確認できた範囲では見つかっていません。2030年に向けた進み具合は、現時点では判断できません。
「肥料」と「肥料原料」は別のもの
ここで、似た言葉を分けておきます。
目標が測っているのは、農地に使われる「肥料」の量です。一方、輸入に頼っていると言われるのは、肥料を作るための「肥料原料」です。化学肥料の原料は、尿素(窒素)、りん安(りん酸アンモニウム。窒素とりん)、塩化加里(加里)で、農林水産省の資料はこの3つを「ほぼ全量を輸入」と説明しています。2024年7月から2025年6月の肥料年度の輸入量と、主な相手国は次のとおりです。
- 尿素:約26万t。マレーシアが74%。
- りん安:約37万t。中国が72%、モロッコが21%。
- 塩化加里:約23万t。カナダが78%。
国内では、これらの原料から肥料が作られます。堆肥や下水汚泥由来の肥料は、農業者へ直接届く地場の流れと、肥料メーカーへ原料として入る流れが、同じ資料の図で示されています。
注意したいのは、輸入量(原料の製品の重さ)と、目標の数字(リンベース)は、単位が違うことです。たとえばりん安の輸入約37万tと、28.5万tを、そのまま引き算して「国内資源で何割置き換わるか」を出すことはできません。
窒素・りん・加里で、置き換えの余地は違う
肥料の三要素は、窒素(N)、りん酸(P)、加里(K)です。国内資源で置き換えられるかどうかは、成分ごとに状況が異なります。
りん。 目標が定義されているのは、りんだけです。国土交通省によると、下水汚泥にはりんが約5万t含まれていて、りんの年間需要量約30万tの約2割にあたります。国土交通省の分析では、汚泥の燃焼灰はりん酸が平均で約27%と高く、肥料原料として期待されています。ただし、約2割というのは、汚泥に含まれる量であって、使える量ではありません(次の章で扱います)。農林中金総合研究所の論文(2023年)は、畜産ふん尿や下水汚泥などの国内資源から回収できるりんの量について、19万〜33万成分tという推計を紹介したうえで、肥料原料の全量を自給することは現実的ではなく、安定的な輸入原料の調達は不可欠だと整理しています。
窒素。 国内資源では、鶏ふん堆肥は肥効成分が比較的高く、化学肥料と代替しやすいと、農林中金総研は書いています。下水汚泥の窒素は、国土交通省が調べた77処理場の平均で6.5%です。国土交通省は、国内で生産・輸入される窒素の約50%に相当する量が下水として流入するとも書いていますが、これは下水に入ってくる量であって、肥料として使える量ではありません。この目標は、リンベースで定義されているため、窒素については数字として示されていません(これはリンベースという定義からの、bioeconomy.jpの読み方です)。鶏ふん堆肥は化学肥料と代替しやすいとされますが、肥料としての効き方の違いは、今回確認した資料では扱われていません。
加里。 国土交通省の分析では、下水汚泥の加里は平均0.3%、燃焼灰でも1.6%と低い値です。加里は、カナダ一国から78%を輸入している成分ですが、国内資源でどこまで置き換えられるかを評価した数字は、今回確認した資料には見つかりませんでした。汚泥の0.3%や1.6%が小さいかどうかの基準は、資料に書かれていません。
整理すると、置き換えの議論が数字で進んでいるのはりんです。窒素と加里は、目標としては示されておらず、確認できた資料からは置換の量を評価できません。「国内資源で輸入原料を置き換える」と一括りにせず、どの成分の話かを確認する必要があります。
資源が「ある」ことと、「使える」ことの間
下水汚泥は、資源としては大きな量があります。国土交通省の資料(2025年1月、令和4年度の数字)では、年間約235万tが発生し、肥料に使われているのは32.0万t、約14%です。残りには、建設資材やエネルギーなど、肥料以外の用途に回っているものも含まれます(その配分は別の記事で整理します)。肥料に向かない理由として、国土交通省・農林水産省の資料から確認できる条件を挙げます。
- 買い手がいること。 国土交通省の過去の調査では、肥料化を全量行っていない自治体の処理場の理由として、「肥料の需要が少ない」が最も多くなっていました。ただし、回答した処理場は23件と小さな調査です。肥料を作っても、使う農家がいなければ、事業は成り立ちません。
- 安全の説明。 令和5年度の分析では、調べた77処理場のうち73処理場(約95%)で、重金属が肥料法の基準値以下でした。残る4処理場については、基準値以下ではなかったとされるだけで、内訳は確認していません。汚泥肥料には、イメージの問題や、利用者の不安も残っています。
- 使う側の手間。 慣れた肥料に比べて、かさばる、特殊な散布機が必要といった理由で、利用が進みにくいと、国土交通省の過去の資料は整理しています。北海道岩見沢市の一例では、散布作業を市が支援することで、全量が肥料として使われるようになり、年間の処分費を2,400万円減らせた、と紹介されています。
- 成分と形。 農林中金総研は、産業副産物由来の肥料は、原料の出所によって使える成分や有害成分が異なり、化学肥料に比べて品質が安定しにくいと指摘しています。りんを取り出す施設は、2025年1月時点で7自治体(8処理場)にとどまります。
- 場所。 農林水産省は、家畜排せつ物など化学肥料の代わりになる国内資源は、畜産が盛んな地域に偏っていると説明しています。そのため、堆肥のペレット化や、広域で流通させるための施設整備が、補助の対象になっています。
過去にも、同じことが起きました。農林中金総研によると、2008年の肥料高騰の際、国内の未利用資源を使う取り組みは、リーマンショックで価格が下がったこともあり、全国的には本格化しませんでした。資源があっても、価格が高い時にだけ注目されるなら、買い手や設備は育ちません。これは、bioeconomy.jpの解釈です。
政策は、置き換えだけを見ているわけではない
最後に、政策の側が何を想定しているかを確認します。農林水産省の「肥料対策の全体像」には、3つの柱があります。
- 国内資源の活用:国内肥料資源利用拡大対策事業。2022年度補正の100億円から始まり、資料には、2025年度補正・2026年度当初予算として70億円と書かれています。堆肥センター、ペレット工場、広域流通施設の整備などを支援します。
- 安定調達:調達先の多角化や、原料の備蓄。りん安は2.4か月分、塩化加里は3か月分の備蓄体制が、2024年11月時点で構築されたとされています。
- 価格急騰への対応:肥料コストの上昇分の一部を補填する仕組み。
つまり、国は「国内資源で置き換える」ことだけを狙っているのではありません。輸入が続くことを前提に、国内資源の活用、調達先の分散、備蓄の3つを組み合わせています。40%という目標は、そのうちの一つです。
まとめ
堆肥や下水汚泥が輸入原料をどこまで置き換えられるか。確認できた範囲で言えるのは、国が掲げる数字はりんだけで、約7.1万tから約10.0万tへという控えめな規模(bioeconomy.jpの計算、基準は資料に明記なし)で、窒素と加里については評価できる数字がない、ということです。「国内資源40%」は、肥料の使用量(リンベース)という、縮む想定の分母に対する割合です。2021年の28.5万tは、国内資源の量ではなく分母と読めます。目標が数字で示しているのはりんだけで、窒素と加里は、この目標の外にあります。
資源が「ある」ことと「使える」ことの間には、買い手、安全の説明、散布の手間、成分と形、場所という条件があります。堆肥や下水汚泥が、輸入原料をどこまで置き換えられるかは、資源の量だけでは決まらず、これらの条件がどこまで解消されるかで決まる、というのが、確認できた資料からの読み方です。
次に確認したい点は、2021年より新しい実績値が公表されるか、そして、堆肥・下水汚泥の「倍増」と国内資源の全体量の関係が、公式に説明されるかです。
食品残渣の側から見た同じ問いは、食品残渣は、飼料化と肥料化のどちらが成立するのかで扱っています。下水汚泥が肥料以外の用途にどう配分されているかは、別の記事で整理します。農業残渣の用途の競合は、農業残渣は土に還すべきか、飼料・エネルギーに回すべきかで扱っています。
参照資料
- 農林水産省「肥料をめぐる情勢」(令和8年8月)(目標、分母・分子の図、原料輸入量と相手国、生産量、肥料対策の全体像、備蓄の状況の記述). maff.go.jp
- 国土交通省 水管理・国土保全局 上下水道企画課「下水汚泥資源の肥料利用の拡大に向けた取組について」(令和7年1月。令和4年度の汚泥の利用状況、重金属の分析結果、肥料成分の平均値、りん回収の実施状況). maff.go.jp
- 国土交通省「脱炭素化/資源・エネルギー利用」(下水汚泥に含まれるりん約5万t、年間需要約30万tの約2割、窒素の流入に関する記述). mlit.go.jp
- 国土交通省「下水汚泥資源の肥料利用」(肥料利用の課題、国内資源利用割合40%の目標の記述). mlit.go.jp
- 国土交通省「下水汚泥資源の徹底利用に向けた需要確保等の課題整理・方策検討」(肥料化しない理由の調査、岩見沢市の事例など). mlit.go.jp
- 農林中金総合研究所 小針美和「肥料をめぐる動向と今日的課題」(農林金融2023年5月号。国内資源から回収可能なりんの推計、2008年の肥料高騰時の経緯、国内資源由来肥料の課題). nochuri.co.jp