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考察

みどりの食料システム戦略の目標は、どこまで進んだのか——目標を超えたものと、逆に動いたもの

農林水産省の進捗資料(2026年2月)で、農薬・化学肥料・食品ロスは、2030年の目標をすでに超えました。一方、農林水産業の燃料のCO2排出は、減るどころか増え、有機農業の面積は耕地の0.8%です。ただし、農薬の減少には、資材の値上がりによる買い控えも寄与したと考えられる、と農林水産省自身が書いています。主なKPIの現在地を、読み方の注意とあわせて整理します。

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畑と、上下に向きの違う矢印、棒グラフを並べた、抽象的なイメージ

農薬も、化学肥料も、食品ロスも、2030年の目標をもう超えた。農林水産省の進捗資料を読むと、そう書かれた項目が並びます。一方で、農林水産業の燃料から出るCO2は、減るどころか増えています。同じ戦略の中で、なぜ進み方がこれほど違うのか。そして「超えた」という数字を、そのまま政策の成果と読んでよいのか。農林水産省が2026年2月にまとめた「みどりの食料システム戦略」の進捗資料から、主な指標の現在地を整理します。

主な指標の現在地

「みどりの食料システム戦略」は、2021年に決められた、農林水産業と食品産業の持続可能性に関する戦略です。2030年と2050年の目標を、数値の指標(KPI)で置いています。農林水産省の資料(令和8年2月)から、主なものを並べます。

指標2030年の目標2050年の目標2021年2023年2024年
農林水産業の燃料のCO2排出1,484万トン(10.6%減)0(100%減)1,815万トン(9.5%増)1,856万トン(11.9%増)2026年4月に把握予定
化学農薬の使用量(リスク換算)10%低減50%低減約9%減約15.0%減約19.9%減
化学肥料の使用量72万トン(20%低減)63万トン(30%低減)85万トン(約6%低減)68万トン(約25%低減)2026年7月に把握予定
有機農業の取組面積6.3万ヘクタール100万ヘクタール(耕地の25%)2.66万ヘクタール(0.6%)3.45万ヘクタール(0.8%)2026年6月に把握予定
事業系の食品ロス273万トン(2000年度比で50%減)—279万トン(49%減)231万トン(58%減)2026年6月に把握予定

増減の基準年は指標によって異なります(資料の注記による)。表の数字は、資料の一覧表をそのまま転記したものです。

2030年の目標に対して、農薬(2024年に約19.9%減)、化学肥料(2023年に約25%減)、事業系の食品ロス(2023年に58%減)は、すでに目標の水準を超えています。一方、燃料のCO2は、基準から増えたままです。有機農業は、割合で0.8%です。

「超えた」を成果と読む前に——農薬の例

農薬の減少について、資料は、2024年の実績の評価を、次のように書いています。

  • 資材費の上昇による農薬の買い控えの傾向に加え、化学農薬の使用量(リスク換算)が大きい土壌くん蒸剤の使用の低減が進んだことなどにより、基準年より減少した。
  • 2030年の目標は達成しているが、取組の効果だけでなく、資材費の上昇による買い控えも寄与したと考えられる。引き続き対策を進める必要がある。

つまり、農林水産省自身が、「目標を超えた」ことを、そのまま政策の成果とは読んでいません。値上がりで使う量が減った分は、値段が戻れば戻る可能性があります。

化学肥料の減少(2023年に約25%減)については、資料は、施肥を減らす栽培技術の実証、堆肥や下水汚泥などの国内資源の利用拡大、土壌診断に基づく適正な施肥などの取組を挙げています。ただし、この減少の要因を、数字で切り分けてはいません。肥料の国内資源の話は、堆肥や下水汚泥は、輸入肥料原料をどこまで置き換えられるのかで整理しています。

食品ロスについては、事業系が2030年の目標の水準になっています。食品ロスの範囲や発生する段階は、食品ロスとは何かで整理しています。

逆に動いたもの——燃料のCO2

燃料のCO2の指標は、目標とは逆の向きです。2030年の目標は10.6%の削減ですが、2021年は9.5%増、2023年は11.9%増です。農林水産業の燃料のCO2は、1,815万トンから1,856万トンへ、約41万トン増えました(資料の数字の差)。

この指標に結びつく技術の指標を見ると、状況が分かります。電動草刈機の普及率は、2021年の16.1%から、2024年には27.7%に上がっています。自動操舵システムは、4.7%から9.8%です。ただし、資料は、2030年に普及率50%を目標に置いています。大型の林業機械の電化の技術は、2024年もまだ「技術の段階(TRL)」で1〜2という低い水準です。小さな機械の普及は進んでも、燃料全体の排出が減るところまでは、至っていません。

有機農業——2030年と2050年では難しさが違う

有機農業の取組面積は、2021年の2.66万ヘクタールから、2022年は3.01万、2023年は3.45万ヘクタールへ、増えてきました。資料は、2023年の増加を、前年度から4,400ヘクタールだと書いています。

この増え方が続くと仮定して、目標との距離を試算してみます(本稿の試算で、将来の見通しではありません)。

目標必要な面積2023年からの不足年あたりに必要な増加直近の増加(2023年)との比
2030年(6.3万ヘクタール)6.3万約2.85万約0.41万(7年で)約0.9倍
2050年(100万ヘクタール)100万約96.6万約3.6万(27年で)約8倍

2030年の目標は、直近の増え方が続けば、届く範囲にあります。一方、2050年の100万ヘクタールは、直近のペースの約8倍の速さで増やし続ける必要があります。同じ「有機農業の拡大」でも、2030年と2050年では、求められる変化の大きさが違います。

資料は、有機農業の拡大に向けた取組として、地域ぐるみで進める「オーガニックビレッジ」が154市区町村になったこと、有機農産物の広域流通に向けた専門の農協が2025年9月に設立されたことなどを挙げています。また、令和8年度の夏ごろをめどに、「有機農業の推進に関する基本的な方針」を改定する予定だとしています。

この資料の限界

使うときの注意が、3つあります。

  • 最新の年の数字が、資料に入っていない項目があります。 この資料は2026年2月時点で、燃料のCO2、化学肥料、有機農業、事業系食品ロスの2024年の値は、2026年3〜7月に把握する予定とされていました。その後に公表された値は、本稿では確認していません。
  • 目標の達成と、政策の効果は別です。 農薬の例のように、価格など、政策以外の要因が数字を動かすことがあります。資料の評価も、要因を切り分けているのは、一部の項目だけです。
  • KPIの数字は、農林水産省がまとめたものです。 取組の評価も、農林水産省の自己評価です。第三者による検証ではありません。

まとめ

  • 農林水産省の進捗資料(2026年2月)では、農薬、化学肥料、事業系の食品ロスは、2030年の目標の水準を超えました。
  • ただし、農薬については、農林水産省自身が、資材費の上昇による買い控えも寄与したと書いています。「超えた」ことと、政策が効いたことは、分けて読む必要があります。
  • 燃料のCO2は、目標とは逆に、基準から増えています。
  • 有機農業は耕地の0.8%です。2030年の目標は、直近の増え方が続けば届きうる一方、2050年の目標は、その約8倍のペースが要ります(本稿の試算)。

次に見たいのは、2024年の実績値が出たときの、肥料と有機農業の数字と、令和8年度に改定される有機農業の基本方針の中身です。

参照資料

  • 農林水産省.「みどりの食料システム戦略に基づく取組の進捗状況と今後の展開」(令和8年2月、資料2。KPIの2021・2023・2024年の実績値の一覧、2024年実績の評価、有機農業の取組). maff.go.jp

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